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■空き家再生  まちのスキマを上手に活かす

 

住宅地での空き家問題

 

都心周辺の杉並区や世田谷区、練馬区では誰も住んでいない空き家が増えつつある。東京都全体で11.1%、このうち長期にわたって居住者のいない空き家は25.1%を占めている。(※6)杉並区では、292箇所(※7)の空き家が確認されている。近所を散歩していても、けっこう多くの空き家、というより廃屋が点在していて、なぜ放置されているのか普段から疑問に思っていたところだった。

杉並区や世田谷区、練馬区など都心から30分程度で比較的交通の便の良いところにも関わらず、こうした空き家が散見され、庭の樹木や雑草が伸び放題になって近所迷惑になっていたり、お化け屋敷のようになっている空き家は、火災の心配など、最近問題視されつつある。

市街化が進んだ当時は、新しい世帯は核家族世帯が多かったが、子どもが成長し、独立して、世帯の数と住宅の数のバランスが崩れている。その結果、住宅をもてあましてしまうことになる。解体には費用もかかるし、現金化が必要がなければ、固定資産税の支払いはあるものの、放置している例もあるだろう。また、相続でもめていたり、相続人がいなかったりして手がつけられない場合もあるだろう。行政としては、近所から苦情が出されても、多くの場合、私有財産には手をつけにくいのが現状で、結果的に空き家はそのまま放置されている。

そんなことを考えていたところに、ある人から空き家を何とかしたいという相談があった。ご本人はマンションで一人暮らしをしていたところに、相続で戸建ての住宅を相続したのだが、特に使う目的もなく、規模が小さく築40年という古さから賃貸することもできず、わざわざ資金を投じてリノベーションもする気もないが、どうしたものかという相談だった。

 

西新宿の家

 

現地を見たところ、壁中ツタがからまっていて、まさに廃屋であった、外の鉄骨階段は錆ていて、いまにも折れそうになっていた。一緒に見に行った建築家は、こりゃ壊すしかないね、と一言で片付けたが、私は他に方法がないかと考えていた。

個人的な興味が半分以上だったが、この建物をリフォームしたら何かに使えるのではないか、その場合いくらかかるだろうかと見積もってみた。若干のリスクはあるが、最寄りの地下鉄駅まで3分という条件の良さがあれば、借り手はいるだろうと考え、オーナーに10年間の賃貸を提案した。改修費から逆算して5年で黒字になるように賃料を提案したところ、オーナーの了解が得られたので10年間サブリースしてみることにした。

 

かなり老朽化していても、新築ほど資金を必要としない。この事例では耐震の不安があったので、瓦屋根を鋼板に取り替え、傾いた基礎部分を補正し、柱を取り合えるなどした。水回りと空調設備は最新のものに取り替えたが、間取りを、ほぼ従前のままにすることで、コストを抑えた。オーナーは固定資産税に少々のお小遣い程度の収入になれば良いとの好条件だったので、賃料から得られる収入で初期費用を返済でき、一定期間で黒字にできる見通しがついた。周辺の同規模の住宅に比べて賃料は2割ぐらい安く提供できているので、若い世帯向けにはちょうど良い。オーナーに対しては、10年後には手元にもどってくるので、そのときに改めて使い方を考える機会があるというメリットがある。建物がまだ充分使えるようなら契約を延長して、オーナーへの支払い賃料を上げてもいいし、入居賃料を下げることもできる。

 

住宅地でのコンバージョン

 

こうした住宅地でのコンバージョンには、様々な可能性がある。地価が下落したとはいえ、戸建て住宅の取得は若年世帯には手が届きにくいものだが、定借型のコンバージョン住宅であれば、賃貸マンション並みの賃料で空き家を提供することができるだろう。空き家が発生するエリアでは、高齢化が進展している地域が多いので、若年世帯を呼び込むことで町の若返りを図ることにもなる。

タウンマネジメントというと大規模な開発地や中心市街地の再生組織という例が多いが、同じような仕組みは商業地だけでなく住宅地でも可能である。課題は、初期費用を確保することが難しい点(コンバージョンにはローンが付きにくい)と空き家の家主との交渉・調整、そして耐震化費用である。東日本大震災以降、直下型地震の可能性が不安視されている昨今では、こうしたコンバージョンのコストがかかり、事業が成立しない物件も多くなり、さらに放置される空き家の増加が懸念される。

係争中であったり行方不明であったりするものを除けば、家主に対して何らかの提案ができる可能性はあるし、なにより不在地主化している空き家は近隣住民にとってはおおいに迷惑だという問題は解決することができる。

すでにいろいろな事例があるが、住宅以外にも、グループホームとして転用したり、地域の寄り合い所、託児所にしたりすることも考えられる。つまり、地域が必要とする機能に転用していけば良いのである。低利融資や行政の財政支援があると再生事業は、もっとやりやすくなるだろう。

SOHOまちづくりと家守事業は、小規模事業者の働く場所としてのコンバージョンであったが、同じやり方を住宅地でも行うことができる。

運営組織は、町内会が望ましいが、機動的に動くには別途まちづくり会社などの非営利組織を設立し、空き家の調査、交渉、権利調整、契約事務、設計・改修、入居者誘致までをトータルに行うことが考えられるので、引き続き取り組んでいくつもりである。